「平均給与は31万円」と聞いて、今の給料や、気になっている求人の月給を思い浮かべる。差があると、ついその金額だけで、高い・低いを判断したくなります。
でも、その31万円は、誰の、何の給料でしょうか。同じ月の同じ統計にも、約40万円という平均が出てきます。どちらかが間違っているのではなく、集計する人が違うのです。
今回は、厚生労働省が2026年10月23日に公表した毎月勤労統計調査の8月分確報を開いてみます。数字の中身が分かると、求人の月給との距離も、少し違って見えてきます。
同じ8月でも、平均は31万円にも40万円にもなる
まずは「現金給与総額」という、その月に実際に支払われた給与の総額を見ます。事業所規模5人以上の一人平均は、次のとおりでした。
| 集計する人 | その月の平均額 |
|---|---|
| 一般労働者とパートタイム労働者を合わせた全体 | 311,563円 |
| 一般労働者 | 400,899円 |
| パートタイム労働者 | 116,155円 |
出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026年8月分結果確報」概況1ページ。
全体の約31万円には、働く時間や日数が短いパートタイム労働者も含まれています。長く働く人と短く働く人を含めた月額を、自分と同じ勤務時間の人の給料だと思って読むと、比べる相手がずれます。
もう一つ、この統計の「一般労働者」は、正社員という意味ではありません。常用労働者のうち、統計上のパートタイム労働者に当たらない人です。パートタイムかどうかも、職場での呼び名ではなく、所定の労働時間や日数で区分しています。
「誰を含めた平均か」を変えるだけで、月額の見え方は大きく変わります。約40万円という数字も、すべての正社員に標準的に支払われている金額、と読み替えることはできません。
31万円は、基本給でも手取りでもない
次に、中に入っている支払いを見てみましょう。「現金給与総額」は、基本給や各種手当などの定期給与に、その月に支払われた賞与などの特別給与を足した金額です。残業や休日・深夜の勤務に対する給与も含みます。
今回の全体平均31万1563円は、定期給与29万8317円と、特別給与1万3246円を足したものです。毎月ほぼ決まった条件で支払われる部分と、そうでない部分が、一つの数字になっています。
しかも、所得税や社会保険料などを差し引く前の額面です。銀行口座に入った自分の手取り額と、そのまま並べる数字ではありません。詳しい範囲は、厚労省の用語の解説で確かめられます。
ここが分かると、「月給は同じなのに、給与総額が違う」ということも不思議ではなくなります。残業代や賞与の支払いが違えば、その月の合計も変わるからです。総額が多いという事実と、基本給が高いという事実は、分けて見たいところです。
月給25万円の求人と並べると、何がずれる?
たとえば、月給25万円と書かれた求人を見ているとします。これは説明用の例です。この一行だけでは、基本給はいくらか、どの手当を含むか、固定残業代が入るかまでは分かりません。
求人の25万円が、毎月の基本給と決まった手当を合わせた額なら、残業代や当月の賞与まで含む31万円とは、中身がそろっていません。固定残業代を含む月給であれば、今度は、何時間分の支払いを含んでいるのかが関わります。
さらに、統計は実際に働いている人に支払った結果、求人はこれから採用する人に提示する条件です。年齢、経験、業種などの違う人をまとめた全国平均だけで、その求人が割安なのかを判定するのは難しいのです。
求人の月給を比べるときは、給与の内訳と働く時間をそろえること。まず同じ職種・経験を想定する求人同士で、基本給、手当、固定残業代、勤務時間を並べた方が、応募先の違いを具体的に読めます。賞与は、月給に含めて見るのか、別の年額として見るのかも分けます。
平均は、給料の合格ラインではない
今回の31万円は、2026年8月という一か月の、対象となる産業の常用労働者5人以上の事業所についての平均です。日本で働く全員の給料でも、いちばん多くの人が受け取っている額でもありません。平均より下の人が何割いるかも、この金額一つからは分かりません。
8月の総額を12倍すれば、自分や応募先の通常の年収が出るわけでもありません。月によって残業や賞与の支払いが動くためです。年収を比べたいなら、最初から一年の支払いを同じ範囲で比べる必要があります。
「平均31万円」という見出しには、働く人の構成と、支払われたお金の種類が折り重なっています。その中身をほどいてから見れば、平均との差に驚くだけでなく、何の差を見ていたのかが分かります。
自分の給与明細や求人票を開いたとき、まず同じ範囲の支払い同士を並べてみる。基本給の差なのか、働く時間の差なのか。それが分かれば、気になっていた金額の差について、具体的な話ができます。

